『1984年』ジョージ・オーウェル著
ジョージ・オーウェルの『1984年』を読みました。
特に紹介するまでもない有名な本だからあらすじとかそういうのは書かなくていいかな。海外では『読んだことないけど読んだふりして語る本』の第一位らしい。だから、意外とみんな実際に読んだことはないのかもしれない。それでも、“BIG BROTHER IS WATCHING YOU” とか、“WAR IS PEACE” はよくオマージュされてるし、有名なのはたぶん間違いない。
大学生活の終わりのころ、ハヤカワから出てる旧訳を読んで感銘(?)を受けたけど記憶も薄れてきて、新訳もたくさん出てたからもう一度手に取った。訳が違うせいもあるのか、以前とは受ける印象が少し違ったな。ところどころ、記憶の中のストーリーと違う部分もり、読み直すと新たな発見があって面白い。ブラザー同盟としての活動がもっとあったような気もしたけど、そんなことはなかった。
当時と比べると小説全体の構造や意図を俯瞰的に読んで評価できるようになっている自分に成長を感じた。当時から今までにだいぶいろいろな本を読んだからかな。前半では陰鬱な世界観を描きつつも、どこか救いのあるお約束的な男女関係の描写があり、そこから一気に絶望的なディストピアワールドに連れていく流れは小説として見事。ニュースピークや党の体制についても理論的に練られていて読み応えもあってやはり名作である。あと、Chat GPT にいろいろと論文や批評を教えてもらって、それを読んで文学的な部分をたくさん知ることができた。
最近は唯物論的な思想に触れる本を多く読んでいたので、オブライエンの語る唯我論の極値(集団的唯我論)については鮮烈だった。
オブライエンは手を上げて彼を制した。「われわれは精神を支配しているから、物質を支配しているのだ。現実は頭蓋の内部にある。君も徐々に分かってくるだろう、ウィンストン。われわれに出来ないことは何一つない。不可視にだってなれるし、空中浮遊もできる──何だって出来るのだ。やりたいと思えば、わたしはしゃぼん玉のようにこの床から浮かぶこともできる。それを望まないだけのことだ。党が望んでいないからね。君は自然界の法則についての十九世紀的な考え方を破棄しなくてはいけない。われわれが自然界の法則を作っているのだ」
ジョージ・オーウェル; 高橋 和久. 一九八四年 (ハヤカワepi文庫) (pp.376-377). 早川書房. Kindle 版.
最終章で、愛情省から解放されたウィンストンの思考が巡りながら、ラストの部分にたどり着く流れはやっぱり圧倒的なのよね〜。
彼は巨大な顔をじっと見上げた。その黒い口髭の下にどのような微笑が隠されているのかを知るのに、四十年という年月がかかった。ああ、なんと悲惨で、不必要な誤解をしていたことか!ああ、頑固な身勝手さのせいで、あの情愛あふれる胸からなんと遠く離れてしまっていたことか!ジンの香りのする涙が二粒、彼の鼻の両脇を伝って流れ落ちた。でももう大丈夫だ。万事これでいいのだ。闘いは終わった。彼は自分に対して勝利を収めたのだ。彼は今、〈ビッグ・ブラザー〉を愛していた。
ジョージ・オーウェル; 高橋 和久. 一九八四年 (ハヤカワepi文庫) (p.426). 早川書房. Kindle 版.
原文だと過去形(“He loved Big Brother.”)になっているが、翻訳では「今」が挿入されていて「現在を支配する者が過去を支配する。」が巧みに表現されてるなーと感心しました。
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数年前に攻殻機動隊 SAC 2045 を見たときに『1984年』が出てきて「おー」って思ったけど、あんまり覚えてないのもあって関わりがよく分からなかったんだよな。thinkpol とか doublethink とか単語は使われてたのは覚えてるけど。改めて SAC 2045 を見たら何か分かるのかなぁ。
そういえば SAC 1st は何度も見てるけど『ライ麦畑で捕まえて』って読んだことないから読んでみようかな。