2024年上半期に読んだ本
上半期にいくつか本を読んだので簡単に記録しておく。
『確率思考 不確かな未来から利益を生みだす』 アニー・デューク著
プロのポーカープレイヤーが意思決定のプロセスについて書いた本。確率な思考によって意思決定の質があがるという話。現実世界はポーカーや麻雀のように不完全情報ゲームに近く、そのような環境でどうやって意思決定をするべきか、どうやって結果から意思決定を評価するかについて書いている。
こういう系の本は好きでよく読むけど、振り返ってみるとやっぱり結果を「成功」「失敗」の二値で考えていたような気がする。また、確率的に考えることによってたとえ結果が失敗でも自分を許せるようになる、というのはその通りだなと思った。
『欲望の見つけ方』 ルーク・バージス著
ルネ・ジラールという20世紀の哲学者が考案した『模倣(ミメーシス)理論』という理論をカジュアルに解説した本。著者はルネ・ジーラルと面識はないが、ルネ・ジラールの教え子に有名な投資・起業家のピーター・ティールがいて、彼を交えた話がよく出てくる。
どのようなプロセスで人が何かを欲するようになるか、という話を「他者の模倣」という話で説明しようとしている。ただ、全体的にいまいち納得感に欠けた。本当に模倣理論と関係ある?ってエピソードも多かったし。著名な本を引用することでなんとか本に箔をつけようとしている印象。アリストテレスとかよく出てくるけどふーんって思った。浅い欲望と深い欲望みたいな二元的な話が出てきてさきほどの「確率思考」でよくないってとりあげられてた典型の論理構成だったので残念。
後半にでてきた MCode Assesment っていうのはおもしろそうだったので数千円払って実際にやってみた。自分のモチベーションがどこからくるかがよく理解できたので気が向いたらやってみるといいかもしれない。
https://motivationcode.com/assessment/
『習慣と脳の科学』 ラッセル・A・ポルドラック
『習慣』に関する脳神経科学の本。よくある啓発書ではなく、スタンフォード教授の脳神経科学研究者による最新の研究を基にした解説本。
著者がガチ研究者なのでエビデンスなどの取り扱いがかなり慎重になっている。だから、基本的に結論があいまいで100%正しい方法!みたいなものは出てこない。「数々の研究結果をサーベイしてみると、どうやら XX は YY と関連がありそうだ」という話ばかりで、習慣を変えるための迷いのないアドバイスがほしい人には向かない。どちらかといえばそういう方が信頼できるので自分にはとても好印象だった。
あと、習慣の話だけでなく科学的な信頼性についても一家言あるらしく、基本的に査読付き論文でも9割の研究結果は再現不能という過激な主張もしている(他の人の主張の引用だったかも)。統計的有意差というものを大学で習うけれど、それをハックする手法もたくさんあってもっと誠実に研究しようという話も。
実験のため(主にマウスの)脳内ニューロンを精密に操作するオプトジェネティクスって手法の高度さにびっくりした。マウスの遺伝子を操作し、視神経のように光に反応して発火する性質の細胞を脳内の特定の領域で発現するようにする。そうすると外から光を照射することでその領域のニューロンだけを活性化して実験することができる。とのこと。こんな高度なことやってるのね…。
『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部 』 山岸忍著
最近、ニュースでやってた大阪で起きたえん罪事件の当事者の書いた本。著者は東証一部上場の新興不動産企業の社長。とある不動産取引がきっかけの横領事件の容疑者として逮捕、拘留、起訴されるが、粘り強く裁判をやって地裁で完全無罪判決を得るまでの記録本。
そもそも地検特捜部が起訴した事件は99.9%くらいの確率で有罪になるらしい(SLA みたいだな)。この事件は地裁で無罪判決、検察側も一審で控訴を諦める、という特捜事件としては異例の判決で終わる。日本の司法制度は中世的とは聞いたことあるけど、特捜部によってストーリーが作られて、長期間閉ざされた空間に拘留して精神を追い込むことで被疑者に自白させて起訴していく。一連の流れとその手法の描き方が生々しい。
著者は一代で東証一部上場の2000億円企業を作り上げただけあってバイタリティや資金面で常人とは違う。一流の弁護士をどんどん雇えるし、やっぱりメンタリティが別格だ。だからこそ刑事事件で無罪を勝ち取っても「恵まれた環境にいる自分しか検察を変えることはできない」という気持ちをもって今は国家賠償請求訴訟で国を訴えている。現役の主任検察官達が証人尋問されるという異例の自体に世間の注目度も高い。
失敗したら腹切らなきゃいけないんだよ。命賭けてるんだ、こっちは。だから、絶対失敗しないように証拠を集めて、何百人の人から話を聞き、何千点という証拠を集め、何万という電子ファイルを見て、何十万通ものメールを見て、これをしてあなた達を逮捕しているんだ。命賭けてるんだよ。検察なめんなよ。命賭けてるんだよ、俺達は。
と被疑者を罵倒した検察官が、賠償裁判で「間違ってましたけど腹きりますか?」って尋問されるっていうギャグ漫画かよっていう展開が起きてる。これ現実なのよね。。。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b5bdcbdbea20ffa4e3fc28918483293c0196982b
読んだ感想としては国家権力怖すぎるのでどうにか関わらないで生きていきたいなと思った。
黙秘することはやましいことであり、正々堂々と話せばわかってもらえると思っていたからだ。 しかし、いま、わたしの身内や親しい友人が似たような状況に陥ったときは、全身全霊で黙秘するよう勧める。
「絶対になにもしゃべるな」
と伝えたい。
司法手続が公平公正でないからである。
秋田先生いわく、黙秘は真実を守るためのものなのだという。なんらためらう必要はなく、むしろ積極的に行使すべきであるということも伝えていきたい。
山岸 忍. 負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部 (文春e-book) (p.398). 文藝春秋. Kindle 版.
という言葉が重すぎたので自分も何かあったら黙秘しようかなと思った。そういう機会がないのが一番だけど、えん罪で逮捕、とかだともうどうしようもないよね。
まとめ
上半期はこんな感じだった。ちょっとずつ読書習慣が戻ってきたかなという感覚。読みたい本は貯まってるから下半期もいろいろ読みたいな。